自身が手がける物語小説だけではなく、海外の優れた文学をこれまで多数翻訳してきた小説家「村上 春樹 (Haruki Murakami)」ベストセラー作家として日本のみならず世界的な人気作家の村上春樹ですが、翻訳家としても35年以上のキャリアを重ね、たくさんの翻訳出版をしています。
今回は、村上春樹がこれまでに翻訳した海外の小説を厳選して紹介します。村上春樹の作品が好きで、さらに彼が手がけた翻訳本も気になっている方は是非とも参考にしてみてください。
翻訳家としての村上春樹
ノルウェイの森や海辺のカフカなどの物語を生み出し、日本を代表する小説家として名を馳せる村上春樹。自身の小説家としてのキャリアで世に送り出した作品(物語)は世界中で翻訳され、確固たる地位を築き上げているのは周知の通りです。ただ、彼には小説家としてだけではなく別の顔があります。それが、”翻訳家”としての村上春樹です。
これまでに、スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・チャンドラー、トルーマン・カポーティ、J.D.サリンジャー、レイモンド・カーヴァーなど、海外の小説や絵本を70冊以上を翻訳しています。翻訳家として一語一語を手で拾い上げてゆく地道な作業は、小説を書く上でも大きな影響を受けていると本人も語っています。
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村上春樹が翻訳したおすすめの海外小説10選
ここからは村上春樹が翻訳した海外の小説を紹介します。一部、絵本やエッセイ本なども含まれていますが、どの作品も読み応えのある作品ばかりを集めています。
1. キャッチャー・イン・ザ・ライ
J.D.サリンジャーによる長編小説「キャッチャー・イン・ザ・ライ (The Catcher in the Rye)」。村上春樹が2003年に翻訳・出版した世界的に有名なサリンジャーの代表作。主人公のホールデン・コールフィールドが社会の矛盾や欺瞞に対して訴えかける語り口は妙に説得力があり、サリンジャーの物語に漂う”イノセンス”が大きく反映されている作品となっています。およそ60年以上前に書かれた小説にもかかわらず、現在でもまったく色褪せることなく存在する不朽の名作。時間をおいて何度も読み返したくなります。
>>キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)
2. グレート・ギャツビー
スコット・フィッツジェラルドが執筆した小説「グレート・ギャツビー (The Great Gatsby)」。アメリカ文学史における代表作にして”最高の小説”として評価されている本作。村上春樹自身、グレート・ギャツビーをこれまで何度も読み返すほど極めて重要な作品であると語っているように、小説としての完成度が非常に高いです。映画化もされている本作ですが、小説で読むほうがギャツビーの世界観がより伝わります。一度は読んでおきたい作品です。2006年に翻訳・出版。
3. ロング・グッドバイ
レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説「ロング・グッドバイ (The Long Goodbye)」。主人公の私立探偵フィリップ・マーロウを中心に繰り広げられるハードボイルドの長編小説。チャンドラーの文体が僕の原点と語るほど、村上春樹が好きな作家のひとりとして数えられています。また、村上春樹の小説『羊をめぐる冒険』にも多大なる影響を与えた本作は、内容はもちろんのこと、人物描写やクールな文体が魅力的。読んでいるとクセになるフィリップ・マーロウのシリーズ代表作。2007年に翻訳・出版。
4. ティファニーで朝食を
トルーマン・カポーティの中編小説「ティファニーで朝食を (Breakfast at Tiffany’s)」。この作品は、オードリー・ヘプバーンが映画で演じているので、知っている方も多いカポーティーの代表作。マンハッタンの都会的な描写と主人公の魅力が詰まった物語は、映画とは内容ががらりと違っています。カポーティーはこの作品を最後に、無垢の世界観とは距離をおくターニングポイントともいえる作品です。村上春樹自身も好きな作品であると語っていて、カポーティーらしい生き生きとした美しい文体が魅力的です。2008年に翻訳・出版。
5. おおきな木
シェル・シルヴァスタイン作の絵本「おおきな木 (The Giving Tree)」。1960年代から現在に至るまで読み継がれている名作中の名作の絵本です。物語は非常にシンプルで、無償の愛がテーマの本作。絵本といえば、どうしても子供が読む本だと思われがちですが、逆にこの本こそ大人の方にも是非読んでほしい内容です。人間がどれだけ成長しても、忘れることができない”想い”がこの本にはたくさん詰まっています。2010年に翻訳・出版。
>>おおきな木
6. 愛について語るときに我々の語ること
レイモンド・カーヴァーの短編小説集「愛について語るときに我々の語ること (What We Talk About When We Talk About Love)」。村上春樹自身、カーヴァーから小説の書き方みたいなものを多く学んだと述べているように、この短編集を読んでいると重なる部分が多々あります。短編小説の名手として名高いレイモンド ・カーヴァーだけに、完成度の高い作品が並んでいます。村上春樹は実際に生前のカーヴァーとの交流があったようで、今ではほとんどの作品を翻訳するほどお気に入りの作家です。1990年に翻訳・出版。
>>愛について語るときに我々の語ること THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER〈2〉
7. フラニーとズーイ
J.D.サリンジャーの作品「フラニーとズーイ (Franny and Zooey)」。サリンジャーといえば、キャッチャー・イン・ザ・ライのイメージが強いですが、こちらの作品も同じくらい人気がある作品です。”議論小説”というあまり馴染みのない書き方をしていますが、物語自体は非常に深い話をしています。と同時に、好き嫌いがはっきりと分かれる作品でもあるので、その時の気分やタイミングでこの物語に対する印象を左右してしまう不思議な小説です。村上春樹もこの小説の難易度の高さから翻訳作業はかなり難しかったようです。2014年に翻訳・出版。
8. バースデイ・ストーリーズ
村上春樹が”誕生日”をテーマに、英米小説の短編小説を選出・編集した「バースデイ・ストーリーズ (Birthday Stories)」。レイモンド・カーヴァーやポール・セローなど実力のある作家や新進気鋭の作家まで、11の短編小説が収められています。海外のさまざまな誕生日にまつわる物語が編まれているので、いろんな角度から楽しむことができます。また、村上春樹による書き下ろし短編「バースデイ・ガール」も収録。この物語は、どこまでもリアリティーがあり、真偽のほどを書いた本人(=村上春樹)に伺いたいくらい大変興味深い作品です。2006年に翻訳・出版。
9. ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック
米作家スコット・フィッツジェラルドにまつわるエッセイ集「ザ・スコットフィッツジェラルド・ブック (The Scoot Fitzgerald Book)」。村上春樹が愛してやまない小説家スコット・フィッツジェラルドについての話や短編を収録。ロストジェネレーションの代表的作家であり、当時の時代の寵児でもあったスコット・フィッツジェラルド。彼が生きた1920年代の時代背景などを解説しているので、これを読めばフィッツジェラルドをより詳しく知ることができます。2007年に翻訳・出版。
>>ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック (村上春樹翻訳ライブラリー)
10. 村上春樹翻訳(ほとんど)全仕事
翻訳者として自身のキャリアを振り返る「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」。今まで手がけた70冊以上の翻訳本を説明しながら、その当時の心境や翻訳するきっかけなどを語っています。普段めったに公の場に姿を見せることが無い村上春樹の翻訳に対する考え方を垣間見ることができ、大変貴重な内容になっています。また同じ翻訳家として活躍する柴田元幸氏との対談も濃い内容で読み応え十分な一冊です。2017年に出版。